TOP > 会社員のための内部統制入門 > 注目経営者訪問インタビュー:トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社 代表取締役社長 吉越 浩一郎氏
注目経営者訪問インタビュー 筆者の尊敬する経営者ご紹介
弊社取締役青野が、組織力に悩む中小企業に向けてメッセージを頂くため、注目経営者をご訪問、インタビューさせていただいたときの内容をご紹介しております。
インタビュー実施日:2005/10/25
トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社
代表取締役社長 吉越 浩一郎氏
吉越浩一郎氏(よしこしこういちろう) プロフィール
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1947年千葉県生まれ。上智大学ドイツ語学科在学中に独・ハイデルベルク大学へ留学。堪能なドイツ語を活かしドイツ系企業数社で腕を磨いたのち、1983年トリンプ・インターナショナル(香港)にプロダクトマネージャーとして入社、1986年トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社へマーケティング本部長として転勤。代表取締役副社長を経て、1992年、入社後わずか6年で代表取締役社長に就任。現在に至る。 社員の業務集中化/効率化を図る「がんばるタイム」や、禁煙報奨金制度による大規模な禁煙業務効率活動、管理職を対象とする連続16日間の休暇取得義務、役職には依存しない課長代行制度など、ユニークかつ斬新な人事制度を次々と導入。確実な成果を上げている。 19年間毎朝続いているMS会議を解説した「早朝会議革命」(日経BP社)、即断即決のスピード経営の強さを解説した「2分以内で仕事は決断しなさい」(かんき出版)、楽しく仕事をするとは?を真剣に考えさせられる「革命社長」(日本実業出版社)は、いずれも仕事を改革したい経営者、会社員のバイブル的な書物となっている。 |
青野;このたびはお忙しい中、お時間を頂き、大変ありがとうございます。私たちは、会計を社内でオープンにしている企業は組織力が高く、成長力があるという仮説をたてています。中小企業の多くが、会計を社内に非公開にしています。組織力に悩む中小企業の経営者へのメッセージをいただきたく、本日インタビューに参りました。
吉越社長は、著書の中で、コントロールしてはいけないと記載されていますね。
吉越社長;とにかく、ゲーム感覚が大事です。そのためには任すことが必要です。そうでしょ、マージャンでも、横から色々指図されたら、面白くないですよね。でも、任したら、チェックをいれていかなくてはならなくなります。
コントロールは最悪です。信頼が基準です。信頼した上で任せてやらせることが重要です。そのためには、ルールが必要です。任せた後は、業績を見て、数値についてフィードバックする必要があります。話し合いが重要です。フィードバック=管理会計だと思います。
青野;部長以上に、毎月第一営業日にPLをメールで配信されていると伺いました。
吉越社長;部長以上でなくても、誰でも見たければ見ることができます。とにかく、情報はオープンにしています。給料以外は全てオープンです。1200店舗のトリンプショップ、直営の250店舗、合わせて1450店舗のPCでPLが見ることができます。自分の担当のPLも全社のPLも見ることができます。
難しい内容ではありませんから、誰でも見ればわかります。売上があって、原価があって、販管費があって、下のほうにオーバーヘッドの経費が配賦されているという単純な形です。
人間はうちにある理由を知りたがります。××しなさい。と言ったって、その指示の意味がわからなければ必ず反発します。反発したままにしておくと物事はすすまなくなります。決断を下すプロセスに参加してもらうのが一番です。それができないなら、理由を述べます。理由を述べれば、半分は理解します。のこり半分には説明をし続けます。
その意味で、情報をオープンにするのが一番大事です。その中で重要な情報が「会計」です。第一営業日にはOHPに問題や、疑問のある部門別PLを移して、その数値に「?」を書き込みます。それは全国7箇所で同時放映されます。問題点が瞬時に共有されることになります。
情報の公開は、今、どうなっているのかを見せてあげることです。それを追いかけるのが「ゲーム」。ゲームの面白さを追及しています。ああしなさい、こうしなさいでは人は動かないからです。
何が一番難しいと思いますか。「人間」だと思います。
青野;私はコミュニケーションの難しさを感じています。なかなか思っていることを伝えることができません。
吉越社長;基本はオープンにすることです。共通の情報を持てば、同じ方向に進んでいけます。経費を節約しましょうって電気を暗くしている会社がありますよね。ひとつおきに蛍光灯を抜いたりしていますが、そんなことやって何の意味があるんでしょう。会計情報をオープンにして、水道光熱費の増加を見た職員が自主的に電気を消して回るなら意味があります。
優秀な人は勝手に育ちます。組織には優秀な人が、勝手に育つ連鎖が必要です。うちは、社員研修なんてしないって言っています。マニュアルを読んで、マニュアル通りの仕事をするなら、1時間750円(パートの給料)しか払えないと気づいて、自分でどんどん仕事をできる人が、必要な人材です。その気づきを与えるのが、会社が今どうなっているかの情報です。情報は大事です。教育は不要です。会社に、「もっと、教育してほしい」っていうような人に伸びる人はいません。
私の本を読まれているなら、ご存知だと思いますが、タクシーの運転手さんの話がいい例です。ダイエーの林会長の話ですが、同じような話を聞きました。ビラ配りをしている2人の話です。一人は人の波の正面に立って、ビラ配りをしていますが、誰も取ってくれません。もう一人は、どんどんはけていきます。林会長はその人に、どうして、はけていくのか聞いてみたところ、相手の心理をよく分析して、配っていました。人は配っていることには興味を持っています。でも、正面に立たれると、避けてしまいたくなります。目線をあわせず、ちょっとはすに構えてビラを隠しておき、通り過ぎる瞬間にそっと、左手の前に差し出すということです。
仕事ができる人にはどんどん仕事がくるから、さらに仕事ができるようになります。教育はできませんが、「場」を与えることはできます。
青野;なるほど。吉越社長は言い切ってしまわれるところもすごいと思います。
吉越社長;リーダーは自信を持たなくてはいけません。ウエストポイント陸軍士官学校では1年目はフォロワーシップの勉強をします。とにかく、リーダーに従うことを学びます。その過程ではリーダーの弱いところも見えてきます。それも学びとなります。従うからわかるのです。
軍隊で、リーダーが自信を失ったら、その部隊は全滅します。だから、部下のためにも自信をもたないといけません。間違えてもいいから自信をもってやることが必要なのです。そして、間違いを直しながら最後までやりきることです。ふらふらしながらの成功はありえません。
よく、うちの会議を見た人から、「すごいです」などお褒めのことばを頂きますが、20年もやっていれば、うまくなります。最初から完璧なんてありえません。完璧でないことも正とします。
但し、情報を隠したら裸の王様になります。裸の王様が自信を持つのは簡単です。自分だけ、情報を持っているから、情報を武器に部下に勝つことができますね。情報をオープンにして部下と同じ情報量で勝負してこそ、リーダーの資格があると思います。だから、どんなマネージャーも情報をオープンにできないなら、リーダーを降りるべきだと思います。
情報をオープンにするということは、すべてのことが公平になるということです。公平でないと部下はついてきません。すべてをオープンにすれば、上司が何をどう判断しているかがわかります。どうでもいい判断もありますが、そうじゃない判断は、公平でぶれてないことをわかってもらう必要があります。わかってもらえれば親しくなれます。
主に人によってチェックする方法を選んでいます。うまくやっている人のチェックは少なく、外れていったところだけチェックしています。真ん中をいっている人は、ほったらかされていることをむしろ喜んでいます。外れているところだけ毎日チェックしていれば、そんなにずれません。
青野;監査の手法で、効率性を重視した分析的な手続きでは、異常値にスポットをあてて深く調査していきます。手法は同じですね。
それにしても、御社は増収増益を19年続けていらっしゃいます。すごいですね。
吉越社長;景気はよくなっているといいますが、個人消費はまだまだです。繊維は毎年4500億円のマーケットがなくなっています。これからはサービス産業が伸びていくと思います。
中国が安い商品を入れてきます。まだ、安くて大量に消費されるものが伸びています。トリンプでもアモスタイルといって、ブラとショーツをセットで2800円の商品を始めました。これは中国で生産しています。原宿でも2店舗で販売しています。
青野;それは安いですね。是非、今度購入させていただきます。これからはサービス業とおっしゃいましたが、日本はこれまで製造業に支えられ発展してきました。会計の面から見ても、企業主導で工場の原価管理(生産管理)は世界に誇るものがありますが、人を商品としたサービス業での管理手法はこれからという感じがします。その点、社長の「デットライン」は人的生産性向上の重要なポイントになりそうですね。
吉越社長;デットラインはドイツの会社で6年間働いた経験から考えました。向こうでは朝から晩までスタッフ同士話をしません。だから生産性が高いのです。朝静かな会社では仕事がはかどります。常にその状態でないといけないのです。日本では、声が大きい人が仕事をしているような風潮になっていますが、違います。うちでは夜は電気を消してしまって原則残業は禁止です。だから、生産性をあげざるを得ません。今ではがんばるタイムは当たり前に常時化しています。
中野学校では、9時に必ず消灯ですが、後1時間しかない8時にすごい量の資料を渡して読ませるんです。そして、次の日の朝にはその内容について質問されるから、1時間ですごいことができてしまいます。やろうと思えばできるはずです。やろうと思わないだけです。
うちでも同じです。今は電気を消しても悲鳴は聞こえません。デットラインのハードルは上げればあげるほどいいのです。
工場のラインでは1時間に10個の製品がどの人のセクションでも出来上がらないと、最終製品が1時間に10個出来上がらなくなります。工場ではそういうことが明確に議論されていますが、バックオフィスは甘いのが通常です。バックオフィスに半製品が山づみになっているのが日本企業の現状ではないでしょうか。そして、誰がボトルネックになっているのか議論されていません。
うちでは今では残業もないし、子育て中の女性も多く活躍しています。
バックオフィスの生産性をあげるには、全員個室がいいと思います。役員は仲良くする必要があるので大部屋の方がいいと思います。日本では反対ですね。
コミュニケーションのとり方を間違ってはいけません。朝の一定時間徹底的に議論したら、後は無言で働きます。その秘訣は、無条件にデットラインをつけることです。そしてデットラインは徹底的に追跡することです。
デットライン別の日別ファイルに書類を入れているので、その日の会議にすぐにデットラインの束を持ち込めるようになっています。
私には、追いかけてあげる義務があるからです。それは、デットラインを守った人がかわいそうだからです。
ポイントはデットラインを細分化することです。大きな課題を「1ヵ月後までにやって」というのはダメです。
そして、外れたもの、遅れたものだけチェックしていくのが基本です。
幸か不幸か、毎日そういう議論すべき問題は絶えません。今は、監査法人から指摘された棚卸の問題が起きています。問題は山ほどあります。問題が出たら徹底して中にまで入り込んで対処します。
青野;問題が隠されたりしませんか。
吉越社長;隠したことがばれたときは一番厳しくしています。それは、問題は早ければ早いほど小さくてすむからです。問題同士がくっついて大きくなってしまうこともよくあります。隠しても、必ず何らかの形で顕在します。
昔は、問題が出ると「ばかやろう」ってやっていましたが、今はしていません。今は、「誰がやったの!」の代わりに、「誰が火を消すの!」と言っています。そして、火が消えた後の再発防止が大切です。なぜ起こったかの原因究明はそのために必要です。これは文句をいうことではなく、やらなくてはならないことです。さらには、似たようなことが起きないか横展開することが重要です。
とにかく、日本はバックオフィスがルーズすぎます。仕事もせず、会社にとってどうでもいいことをやっています。会社にとって、やらなくてはならないことからはじめなくてはいけません。
レイヤーは少なくする必要があると思います。日本の企業はレイヤーが多すぎます。レイヤーが少ないとトップはものすごく忙しくなります。スピードをあげざるを得ません。
経営のスピードが利益です。そして、それは、能力×時間です。スピードは社員のやる気にもつながります。若い人がどんどん上にあがれるためです。
やる気のポイントは「理解して動く」ということです。「何で?」という気持ちでは何もできません。
青野;吉越社長の経営手法は、日本で未成熟な人的サービス会社の生産性向上に示唆を与えるものだと思います。工場では生産管理、原価計算と、数値管理中心の管理が行われてきたと思いますが、バックオフィスでは、コミュニケーションによって方向性を同一化し、はずれたことを徹底的に追求、そしてデットラインの細分化と追及でスピード経営を可能にすること。それが利益と社員のやりがいにつながるのですね。
本日は本当にありがとうございました。

